La vie en musique

若林一惠(音楽教育・ソルフェージュ研究/大学教員)webサイト

【論文刊行のお知らせ】フランス国内におけるエドガー・ウィレムスの音楽教育の展開:エヴェイユ・ミュジカル(音楽の目覚め)の実践に着目して

暖かく、風もなく、夏のような陽気の盛岡です。

今日は子どもたちが楽しみにしていた学校行事があり、昨日帰宅してから二人でせっせと大量に「てるてるぼうず」を作って家じゅうの窓や壁、自分たちのランドセルや水筒にまでペタペタ貼り付けていました。

その甲斐あってか見事なまでのお天気!良かったね!

ドアに貼ってあったてるてるぼうず。家のあちこちに不意打ちで現れます。


さて、昨年度執筆した論文を所属大学の教職教育センターという組織が発行する紀要に掲載していただき、オープンアクセスとなりました。

下記リンク先からダウンロードしていただくと、お読みいただけます。

iwate-pu.repo.nii.ac.jp

 

タイトルは「フランス国内におけるエドガー・ウィレムスの音楽教育の展開:エヴェイユ・ミュジカル(音楽の目覚め)の実践に着目して」です。

もしよろしければ上記リンクからお読みください。

 

これまで、私の研究は「ウィレムスの音楽教育そのもの」について、思想や実践、あるいは時にウィレムス自身に着目することによって明らかにしようと試みてきました。

加えて、実際に日本の音楽教育の現場で取り入れるためにどのような方法があり得るのかについて、研究会の先生方のお力をお借りしながら実践的に取り組むようなこともしてきました。

いずれもまだ過去形でも完了形でもなく、これからも継続していきたいと考えている研究です。

 

でも、今回の論文は少し違った視点から書いています。

というのは、ウィレムスの音楽教育が行われている場については、これまで、国際ウィレムス連盟(Fédération Internationale Willems)が主催する国際会議や国際セミナーでの公開レッスン、この連盟に所属する複数の音楽教室(ウィレムスの音楽教育を教えるためのディプロムを保有する先生方が在籍)を対象としてきました。

これに対して今回は、上記に挙げたような限定的な場所や場面以外にもウィレムスの音楽教育が広がっている or 知られている可能性はないのだろうか?という点に着目し、少し視野を広げてみたものです。

具体的に述べると、フランス国内の数多ある音楽院では、日本で「ソルフェージュ」と呼ばれる要素を含むレッスンを「フォルマシオン・ミュジカル」と呼ぶようになって久しいのですが、このフォルマシオン・ミュジカル(7歳〜)や、その前段階である「エヴェイユ・ミュジカル(5・6歳対象)」の課程において行われている実践内容がウィレムスの音楽教育とかなり近しいというか、親和性が高いのではないか...?というところに思い至ったことが出発点でした。

この着想のきっかけは、2023年の夏に行ったフランスでの調査に遡ります。

その時の調査では、パリ市内の音楽院でフォルマシオン・ミュジカルを教えているフランス人の先生にお話を聞くことができ、また、フォルマシオン・ミュジカルおよびエヴェイユ・ミュジカルのテキストや書籍、教材などもたくさん入手できました。

この時得られたものが後々私にさまざまな気づきや情報をもたらしてくれることとなり、点と点とが結びつくような形でエヴェイユ・ミュジカルやフォルマシオン・ミュジカルの内容や方向性とウィレムスの音楽教育とに通ずるものを見出すようになったのです。

そこで、今回の論文では、フランス国内のとある自治体が公式に開設しているYouTubeチャンネルの中で、その地域の音楽院で行われているエヴェイユ・ミュジカルのレッスン場面のダイジェスト版動画の中からいくつか抜粋して「この部分ってウィレムスのこの実践と通ずるのでは...?」という比較検討を試みました。

比較材料としたウィレムスの実践動画は、先述した国際ウィレムス連盟の拠点でもある音楽教室Ryméaの公式YouTubeチャンネルや、長年こちらの教室長を務めていらした先生が個人的に開設しているYouTubeチャンネルに上がっている動画の中から選びました。

ちなみに、今回フォルマシオン・ミュジカルではなくエヴェイユ・ミュジカルの方を対象としたのは、ウィレムスの実践が主な対象としている年齢(4〜7歳)とより一致するのがエヴェイユの方であると考えたためです。

とはいえフォルマシオン・ミュジカルのテキストの中にもウィレムスの言説が引用されているものが見つかっているため、引き続き文献などは広く調査していきたいと思っています。

 

今改めて思うのは、ここ十年ほどの間にこのような研究がとても手軽になったなぁ...ということ。

誰もが手軽にアクセスできるYouTubeのような動画共有サイトに豊富なコンテンツがあり、信頼のおける機関や組織による情報も容易に見つけることができます。

少なくとも私が博士課程に在籍していた2013~15年頃にはまだそれほど動画での情報発信はなされておらず、ウィレムスの実践も遠路はるばる現地に赴いてようやく触れられたような状況でした。(だからこそ得られた情報も刺激も相当に大きかったことは間違いありませんが、それはそれとして...)

さらに、必要な手続きを踏んで研究用として撮影した動画は基本的に一般公開するものではなく、読者の方に見て確認していただくことができません。

現地に行くからこそ見える、理解できるものも多いことは前提としても、今ここにいてできることの幅が格段に広がっていることは疑いようがなく、なんて便利な時代になったことだろう...と思います。

 

今回の論文で言及できた範囲は、とても限定的なものです。

ただ、今後もその広がりの可能性を探っていくことは、日本の音楽教育のさまざまな場面での実践の可能性や方法を検討していく上でも意義のあることではないかと考えています。

今年度からはこの延長線上にあるテーマを科研費課題として新たに採択していただくことができたので、ますます活発に活動していきたいです!